【教育】学習成果の教育経済学⑦-いい先生とは?-Value-Added(付加価値)の考え方!

僕はリハビリテーション・セラピストで「脳のリハビリテーション」を専門にしていますが、2002年にはそれまで14年間勤務した病院リハビリテーションのセラピストを卒業し、リハビリテーション・セラピスト(ここでは、理学療法士)養成校の教員になりました。

それから18年教員生活をしています。既に病院勤務のセラピストより4年も長い教員生活になってしまいました。僕は天職だと考えて毎日を過ごしており、幸せな日々です。

しかし、学生たちは僕をどのように評価しているのかわかりません。

たぶん、まあまあな先生くらいには評価してもらえているとは思いますが、果たしてどうなのか…そんな思考を巡らしているときに『「学力」の経済学』に出会いました。それまでは、教育を経済で捉えるということなど考えもしませんでしたが、世の中の「プロ」と言われる人たちが、自分の「価値」を経済的指標で表現していることに接し、「教育斜」や「学習者」ももっと経済学的に評価されるべきだと思うようになりました。

と言うことで、今日は「いい先生とはどんな先生か?」という命題の解明にトライします。最近の「公教育」のもっぱらの話題は、「教員志願者」の減少ではないでしょうか!もちろん、大学の「教育学部への進学」も減少傾向だということなので、当然といえば当然ですが…

しかし、どうしてこれらは減少しているのでしょうか?

それは、「学校=ブラック」という悪いイメージが社会に浸透してしまっている煽りを受けているのではないかと推測しています。実際にそういう記事を見かけたりします。教育学部はこの10年で不人気な学部となり志願者数は激減しています。例えば、

教職のブラックすぎが原因か!? 教育学部の志願者数が約10年で「激減」の衝撃

この記事によると、2010年と2018年の比較では、471人の志願者減がみられます。なかなかに悩ましい問題ですね…これでは、教師の質の低下につながることは眼に見えています。
また、以下のような話しもよく耳にしていますが、あなたは聞いていませんか?

本当に行きたかったのは「教育学部」ではなかった…偏差値から合格するのは教育学部しかなかったから受験して、合格したから仕方なく入学した…

入学したのはいいけれど、やりたいのはビジネスだったので、教員養成の勉強は興味がない…ましてや、小さな子どもはあまり好きではない…

こんなことでは、質の低下以前に、このような人には例え「教員免許」を持っていたとしても、教壇には立って欲しくはありませんよね…

志願者減少の話し以外にも、このような話しもありますよ!「先生」大丈夫ですか?

全国の公立の小中学校には、「常勤講師」と呼ばれる非正規の教員が約4万人いるそうです(2019年)。仕事内容は正規の教員とほとんど同じなのに、正規教員の給与が年700万円程度なのに対し、非正規では最高でも年400万円未満と少ないようです。自治体によっては常勤講師の割合が10%を超えているところもあります。1割の先生は1年ごとに学校を転々としなければいけないという、何とも酷な制度です。しかも、この制度に長年甘んじてきた先生は「差別」でしかないと言っています。

さて、ここまでは「教員の不人気」→「志願者減」→「教員数減少」という、教員の「数」に関する話題でした。これらは良くニュースなどでも取り上げられているので、眼にする機会が多いですよね!

そこで、ようやく今日の命題「いい先生とはどんな先生か?」という話しに入ります。前述したように、教員の数が減少していると言うことは、自ずと「いい先生」と呼ばれる人たちも減少していることは想像できます。果たして、どんな先生が良い先生なのでしょうか?

ある人は「質が高い」先生と言います。また、ある人は「話しが上手な」先生といいます。次の人は「授業が面白い」先生と…きりがないくらい出てくる「いい先生像」の多様化ですが、果たして、このどれが「真」のいい先生なのでしょう!

ここでは、教員の「質」について掘り下げていきます!

みなさんが出会ったいい先生を列挙してみてください。
「生徒や学生のことをどれだけ考えているのか」という視点で書き出してみます!

□言っていることに一貫性がある
□相談したら親身に聞いてくれる
□子どもと保護者への発言が矛盾しない
□授業がわかりやすい
□叱るときには、生徒の話しをよく聞く
□「良くできたとき」には認めてくれる
□「努力をしたとき」には認めてくれる
□間違いを言って気づいたら、素直に誤る

では、これらをもっと客観的に表現できるフォーミュラはないのでしょうか?

『「学力」の経済学』では、教員の質を測定する方法が書いてありました。
その方法は「教員の担当した子どもの成績の変化で見る」というものです。

例えば、1学期の期末試験で英語が55点だったA君が、2学期の期末試験で75点を取ったとします。この期間のテストスコアの上昇分をこの生徒の担任の教育力によってもたらされたものだと考えるわけです。

この学力の変化は経済用語で「付加価値(Value-Added;VA)」と呼ばれています。
例えば、「大学をVAで評価する」と以下のようなイメージです。


(画像の出典:”Beyond College Rankings: A Value-Added Approach to Assessing Two- and Four-Year Schools,” Brookings)

この報告では、ある大学に進学した学生の特徴をまとめ,その学生が似たような大学を卒業した場合に推測される給料と、その学生がキャリアの途中で実際に得ている給料の差額を算出しています。これをその大学の付加価値 (value-added) と考えています

また、アメリカのある州では先生の名前を打ち込むだけで、その先生が教えた生徒の学力変化、付加価値がみられるという取り組みがあります。

これは、ある先生の数学の付加価値(VA)を表していますが、分布の右に位置する教員ほど、付加価値が高く、分布の左に位置する教員ほど付加価値が低いと言うことだそうです。

この教員はMoreという区分にあるので、平均よりも付加価値が高いということになります。

RAJ CHETTYらの研究によると付加価値の考え方をもとに教員の質を測定する方法は極めてバイアスのすくない測定方法であることが明らかになっています。

結論としては、以下の通りです。

・ある子供の学力の向上で表される「付加価値」は教員の質を測定する指標として有用

と言うことで、他校、他県の生徒と比較するのではなく、過去の生徒自身と比較して昨日より今日、今日より明日と伸ばしてやれる先生が「いい先生」ということになりそうです。


今日も最後まで読んでいただき、どうも有り難うございました。
これらの情報があなたにとって有益であれば嬉しいです。
それでは、また!Ciao☆彡

引用・参考書籍】
・中室牧子著『「学力」の経済学』ディスカバー21
・西内啓著『統計学が最強の学問である
・Raj Chetty, John N. Friedman and Jonah E. Rockoff:Measuring the Impacts of Teachers I: Evaluating Bias in Teacher Value-Added Estimates, The American Economic ReviewVol. 104, No. 9 (SEPTEMBER 2014), pp. 2593-2632
・Steven Rivkin:StudylibValue-Added Analysis and Education Policy
・Douglas Harris:Value-Added Measuresin Education

投稿者: コージーニ先生

リハビリテーションセラピストです。現在までに約15万人の患者、その家族及び学生と保護者とかかわりを持ってきました。その経験から患者とその家族&子どもたちと学生たちとの人生に寄り添って感じたこと、学んだことの中から「過去の僕」に知っておいてほしいコト&「未来のみんな」に伝えたいことを呟きます。 著作や詳しい活動履歴はこちら→ https://kojini'sblog.com/about

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